白蓮楼:布袋戲紹介 » 布袋戲について

電視布袋戲木偶~木偶の構造~

木偶の構造

 木偶の構成パーツと、その主な素材を以下に示す。どんなに複雑で豪華な造型でも基本はこれだけである。近年には、よりリアリティを追求して女性の胸や男性の筋肉を表現する為のプラスチックのパーツも使われるようになってきた。
  • 偶頭: 樟木など。木偶の頭は一番重要な部分。
  • 内體: 布。胴体にあたる木偶の下着のようなもの。
  • 偶衣: 布・皮など。衣装、手甲(手布)、靴。
  • 手 : 樹脂素材。左手には天地同という操作棒が接続。
  • 脚 : プラスチック
木偶の構成
写真1 木偶の構成と名称
木偶の胸
写真2 胸 (金光布袋戲 凰后)
木偶の胸
写真3 胸/腕 (霹靂布袋戲 亂世狂刀)

偶頭

木偶の頭
写真4 偶頭
 雕刻師が木塊を彫って作り上げる芸術品。人間の手による何種類もの工程を経て完成する。偶頭製作は、人間国宝級の雕刻師もいるほど重要な台湾の伝統文化だ。国宝級の雕刻師としては「徐柄垣」が有名で、続いて「沈春福」、さらに劉韋成、劉育誠、蘇軒賓、潮州君皇(邱育麟、邱明薪)なども有名。因みに、楼主の好きな素還真は劉韋成が多く手がけており、映画『聖石伝説』の素還真は徐柄垣の作品である。今の電視布袋戲木偶に備わっている活眼活嘴(開閉する眼、開く唇)を考え出したのも徐柄垣らしい。
偶頭の素材
 伝統木偶の場合、梧桐(アオギリ)や白木が使われていたようだが、今ではクスノキ(樟木)が用いられることが多く、その香りが木偶好きには得も言えぬ香りだったりする(笑)。樟だけあって防虫効果もあり。
偶頭製作の方法
 以前の偶頭製作は全て一人の雕刻師による手作りで、時代が下るとある程度の形出しまでは機械で削る雕刻師もでてきた。ただし最終的な作り込みはいまだに手作業である。雕刻師(工作室)によっては大量生産向けに殆どを機械加工で済ませ、最後の若干の修正のみを行っているというケースもあるそうだ。昨今売られている木偶頭の仕上がり品質が比較的均一になっているのはこの影響かもしれない。以前の木偶は同じ雕刻師・同じキャラクターでも、同一と思えないほどの差があり、これと思う一尊(※1)との出会いが貴重なものだった。

※1:「尊」は木偶を数える時の数詞。

 実際の偶頭製作の方法や使用する塗料などはどうやら門外不出になっているようであまり公開されていない。比較的纏まった紹介がされているのが「霹靂造型書」で、又『雲林布袋戲館・炎卿戲偶雕刻公司提供資料』にも偶頭製作の過程が紹介されている。以下の偶頭製作概要はこれら二つの情報源をベースにまとめたものである。
以下に布袋戲木偶の製作過程を紹介する。仏像彫刻や文楽人形の頭の作り方から類推した説明を加えてみた。(独断なので間違っていたらすみません)
  • 劈形: 木取り。木片から頭の大きさに切り出す
  • 粗胚: 荒彫り。眼、耳、口、鼻の位置のあたりをつける
  • 細胚: 小造り。眼、耳、口、鼻の詳細な造りこみ
  • 挖空: 中刳り。眼や口が動く仕掛けのために頭に穴を開ける作業
  • 合眼睛: 目の位置あわせ。眼の開閉の為のしくみの位置をあわせる
  • 設機關: からくりの仕掛け。眼と口が動く仕掛けを頭の中に組込む
  • 補土 : 下塗り。黃土を塗って乾燥させる工程を何回か繰り返し、デコボコが無いよう磨き上げる
  • 粉底(上漆): 上塗り。偶頭の下地を塗る。白色の下地(底漆)を塗った後、肌色の塗料(表面漆)を塗って乾燥させる。しっかり塗装されるまで何回も同じ工程を繰り返す。通常6,7回くらいらしい
  • 繪臉 : キオイ入れ。表情などの細かい塗装を行う
  • 保護漆(上金油): 金油塗り。木偶の塗装が全て終わった後に塗り、コーティングの役割を持つ。塗装の保護と損耗を防ぐ。何回もこの塗りを繰り返し、強度を出すようだ
  • 梳頭 : 塗装が全て終わった後、頭髪を植毛して造型を行う。この作業は雕刻師の作業ではなく、キャラクターの造型を行う人が実施するため、雕刻師とは関係無い工程である

 頭部の内側には眼・口を動かす仕掛けが組み込まれている。眼は、首から出ている紐を引っ張ると閉じるが、それを可能にしているのが首の内部から外へ引き出しされている黒いゴムである(写真5)。このゴムが切れてしまうと目が閉じっぱなしになってしまう。又、ゴムのテンションが下がると眼がすっきり開かなくなったりもするので、黒ゴムの取扱いは要注意。
眼の開閉用の黒ゴム
写真5 眼の開閉用の黒ゴム
口は内部の口の部分に組込まれている小さな板を指で動かすことで下唇が開くようになっている。
偶頭製作の方法~映像資料~
  • 刻偶師-徐炎卿
    • 電視布袋戲木偶ではないが『雲林布袋戲館』の多媒体視聴区でも紹介されている偶頭製作の過程。 中国語の解説だが、言葉が分からなくても偶頭彫刻のイメージが理解しやすい。
  • 型偶製作過程-研作展藝型偶社
    • こちらは研作展藝型偶社が紹介する木偶の製作過程である。 偶頭だけではなく、髪型や衣装といった一連の工程を全てカバーしている。一つの参考として大変分かりやすい。

內體

 偶頭、手脚、衣装を一つに繫げる役目を持っているのが布製の『內體』である(写真4)。頭の入る部分に切り込みをいれ、この穴に木偶の首を差込む。差込んだ偶頭の首は、輪ゴムや針金(人によっては結束バンドやグルーガンなど色々)で內體にしっかり固定される。
昨今の複雑華麗な衣装や肩、ウエストなどが崩れないようにする為、この内體の内側にワイヤーを貼り付ける場合もある。
内体
写真6 內體

偶衣

 特に説明する必要も無いと思うが、木偶の衣装である。昔のシンプルなものから、現在のような豪華で派手な衣装まで、様々な意匠を凝らした作品がある。多くの場合、手甲が付いており、靴もデザインをあわせて一式となっている。
衣装のデザイン画
写真7 衣装のデザイン画(梟皇論戰 智者版 素還真)

 昔は指が一体型の木製で、単純な動作しか出来なかった。電視木偶の最盛期になると樹脂系の素材で皮のように作られるようになり、その中にワイヤーを入れることで自由に指を曲げられるように進化した。このような指が曲がるタイプの手を關節手(関節手)と呼ぶ。 その後、クーラントホースを流用して肘部分からも曲がるようになった腕(旋轉手、轉轉手)が登場。実際の劇の撮影時にはあまり必要な機能ではないが、写真撮影の時にはポージングで大きな差が出る。  木偶の左手には、『天地同』と呼ばれる金属の棒に木製の握り手の付いたものが接続される。木偶の左手はこの棒で動かすようになっている。
木偶の手と天地同
写真8 木偶の手と天地同

 木偶の脚も古い時代の曲げられないものから進化して、電視布袋戲の時代になると関節付きで膝と足首で曲げられるようになった。現在はさらに自然な曲げ方が出来るように膝部分に二重関節を採用するものも登場。正座が可能なレベルの自由度を持つようになった。 二重関節の場合、脚が長くなってしまうので、内體の脚部分の長さもあわせて長くする必要がある。これも昨今の木偶の身長が高くなっている一つの要因である。
木偶の脚
写真9 脚と関節
脚の一例
写真10 脚の一例

 脚の作りは色々なものがあり、二本のパイプを組み合わせてその上をプチプチで覆っているようなケースもあった。外から見えないので、このようなものもありだと思う。プチプチを巻くことによって手触りが柔らかくなる。好みによっては自分で関節脚に巻いてみても良いかもしれない。

各パーツの接続方法

 偶頭、手足、衣装を一つに繫げる役目を持っているのが『內體』である。 首部分に切り込みをいれ、この穴に木偶の首を差し込む。首を輪ゴムや針金(人によって結束バンドやグルーガンなど色々な方法が有る)などで內體にしっかり固定した後、偶衣の首から內體を中に押し込み、腕部分は衣装の袖から引き出す。これで內體が衣装に組み込まれる。
この內體の手足部分にはそれぞれ脚と手を装着することになる。
內體と手足の配置
写真11 內體と手足の配置
 木偶の右手。右手を內體に差込んで手首あたりをビニールテープ等でぐるぐる巻きに固定。
右手の接続部
写真12 右手の接続部
 脚も同じく內體の脚部分に差し込み、衣装の裾とのバランスを見ながら固定する。ここで若干身長をコントロールすることが可能。写真13では脚を曲げているが、実際はまっすぐに伸ばして左右のバランスと長さを確認しつつ固定する。
木偶の脚の付け方
写真13 木偶の脚と繋ぎ方

 木偶の左手。先に左手の操作を担う『天地同』を衣装の中に突き通す。棒の一端は左手の末端に差込んで固定。 もう一方の末端には手で握る為の木を取り付けて左手が完成である。この両端の接続は堅固にしないと、動かしたときに空回りしてしまうので注意。 この天地同を固定した左腕は、接続部分を內體で覆って外から見えないようにする。
両手を內體と固定したら、手甲を被せてテープで巻きつける。、最後にその上に衣装の腕を被せてビニールテープが見えないようにする。最後に手首部分で衣装の袖を縫い合わせ、完成となる。
木偶の左手の付け方1
写真14 左手用の天地同
木偶の左手の付け方2
写真15 天地同と手を固定
木偶の左手の付け方3
写真16 手の仕上げ