Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀

日台共同制作の人形劇

 2016年7月、台湾の霹靂國際多媒體股份有限公司(霹靂社)と日本のニトロプラスが手を組んで、電視布袋戲の木偶を用いた人形劇の放映を開始した。虚淵玄氏が原案・脚本・総監修。表現手法として台湾布袋戲木偶を用いた初めての日本語版オリジナル布袋戲系人形劇(各話約30分、全13話予定)である。 木偶製作・操偶・演出については電視布袋戲の創始者ともいえる霹靂に、そして「魔法少女まどか☆マギカ」などで定評ある日本の脚本家に総指揮を任せると…出来上がったのがこの作品。

 本作品は声優を採用していることから一般的な『布袋戲』の三大定義(一人口白、木偶、操偶)からは外れるが、一つの特徴である操偶(木偶を動かすこと)ついては本家であるはずの霹靂シリーズを越える出来ばえに仕上がっている。木偶が実に良く動いているのだ。近年の電視布袋戲で多用されるCG効果を最低限に抑えた演出はまさに逸品。木偶は動いてナンボといわれるほどその動きが重要なのだが、昨今の霹靂シリーズも金光シリーズもCGに頼り過ぎるきらいがある。CGを多用しないという方針は日本側の意向らしく、この決定に盛大な拍手を送りたい。シリーズを見るときは是非、木偶を動かしている操偶師の技量も鑑賞してもらいたい。

Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀
図1 Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀
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台湾版東離劍遊紀

 台湾では、台湾語の配音で通常の布袋戲として口白師をあてた版も発行。口白師は霹靂シリーズで「八音才子」と呼ばれていた黃文擇の息子である黃滙峰が抜擢されている。
残念ながら口白師はまだキャラクターごとの聲の使い分けが出来ておらず、女性用の声も出せないことから、別途女性の吹替えを採用。すなわち複数による配音となっているのだ。布袋戲は一人口白が傳統で、子供から老若男女全てを一人でこなす技量が必要なのだが…後継問題は深刻そうである。既に複数による口白を採用したシリーズ(『新天宇布袋戲』)もあるにはあるが、「八音才子」の息子として今後の進歩を期待したいところ。
 こちらは台湾版の公式サイト『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀(台湾版)』

東離劍遊紀あらすじ

 人と魔が存在する世界。そして強力な対魔界兵器(「神誨魔械」と呼ぶ)。これらはそのあまりに強力な力ゆえに代々「護印師」達により守られてきた。その「神誨魔械」の中でも最強といわれる「天刑劍」が「蔑天骸」率いる悪の組織に狙われてしまった。「蔑天骸」は「天刑劍」の封印を解くべく、その鍵をもつ「護印師」の生き残り「丹翡」に狙いを定める・・・
 敵の「玄鬼宗」に襲われていた「丹翡」を救った侠客「殤不患」、「殤不患」を翻弄しつつ自分の目的どおりに動かす謎の旅人「凜雪鴉」、そして「凜雪鴉」が呼び集める個性豊かな同行者達が、「天刑劍」を守るべく「蔑天骸」の住む「七罪塔」を目指して旅をする…

 詳しくは『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』参照。大変充実した公式サイトなので、門外漢の解説はほぼ不要だと思う。台湾だと有用な公式サイトが無い場合もあるので、このあたりは流石日本である。


四度目の正直?

 虚淵玄氏が霹靂布袋戲を知るきっかけは2014年台湾で開催されていた展示会だそうだ(『霹靂奇幻武侠世界』と思われる。台北場か高雄場かは不明だが・・・)。それまで全く布袋戲を知らなかったそうで、日本における布袋戲の知名度の低さが露呈している。少なくとも十数年前には映画が公開され、霹靂シリーズの日本語の吹替え版も出ていたのだが(苦笑)。何れにせよ、この作品を契機に台湾の電視布袋戲自体への関心が高まればと思う今日この頃。
台北・高雄 霹靂奇幻武侠世界
写真1 台北・霹靂奇幻武侠世界会場(上)と高雄・霹靂奇幻武侠世界会場(下)
虚淵玄氏と霹靂の運命的(?)な出会いの場
 参考までに、過去霹靂を日本の市場に展開しようとする試みは三度失敗している。
 一度目はかのバンダイビジュアルも深くかかわっていた『聖石傳説 LEGEND OF THE SACRED STONE』。これは2000年東京ファンタスティック映画祭での放映を皮切りに2002年 全国縦断ロードショーが行われたが、大々的な企画にもかかわらず一部のコアなファンを除いて日本に広く定着することが無かった。

 二度目は2008年頃、霹靂社となんらかの提携をした素還真二十週年紀念版公仔の製作会社。日本に霹靂布袋戲を広めたいという熱意があり、霹靂ファンと直接交流して方向性を決めようとしていたが、具体的な手法までたどり着かずにいつの間にか消滅してしまった。

 そして三度目は2010年頃のいわゆる日本公式サイトとまで銘打った霹靂布袋劇日本公式サイト。ウェブサイト自体は既に消滅してしまったようで、このブログだけが残っている。霹靂の日本語版を出す寸前まで行ったようだが、版権等の様々な問題で最終的に挫折した模様。特にコメントを発するでもなく、登録していた"j-pili.jp"というドメイン名も消滅し、ブログも放置のままで今に至っている。

 これらの状況を鑑みると、霹靂シリーズ自体の展開がいかに多難かということが伺われる。その点、この「東離劍遊紀」は日本独自の企画制作で、これまで障害となっていた霹靂側の版権等の問題がクリアされており、三度の試みとは異なるアプローチで日本の市場への展開している。

一言コメント:
 布袋戲の主要なキャラクターは、みな独自の「四念白」を持っている。この「四念白」は出場詩または定場詩と言われ、そのキャラクターが登場するときに読み上げられる。これはただの詩吟では無いので念のため。 「東離劍遊紀」もその慣習を踏襲し一部キャラクターに出場詩を持たせている。ただし、読み上げられるタイミングが奇奇怪怪、ある意味お笑い感。すんなり受け入れられるのは蔑天骸の登場時だけか…? 「出場詩」の補足については『布袋戲の特徴』下部の『出場詩』参照。